CEATEC JAPAN 2017に出展するKyuluxは、新しい有機EL発光材料の実用化を目指して2015年に設立した企業である。Kyulux(キューラックス)のKyuは九州の「きゅう」から、luxはラテン語で光を指す単語から取った。九州発の技術で新しい有機EL発光材料を実用化しようという意気込みが、社名からもひしひしと感じ取れる。
■既存の有機ELより明るく、純度の高い発色
Kyuluxは、CEATEC JAPAN 2017で大きく2つの展示を行う。1つは、Kyuluxが開発した「Hyperfluorescence」(ハイパーフローレッセンス、超蛍光)と呼ぶ技術を用いた有機ELが、既存の有機ELよりも明るく、純度の高い発色をすることをデモで示すもの。そしてもう1つは、Hyperfluorescence技術を用いた1インチ大の商用パネルのプロトタイプを初公開するものだ。CEATECで、日本発の新世代の有機ELの実力と、実用化へのステップを実体験することができるのである。
■有機材料だけで高効率の発光が可能に
有機ELの世代と特徴。Hyperfluorescenceの優位性がよくわかる
Kyuluxはもともと、九州大学の安達千波矢教授が開発した第3世代の有機EL発光材料であるTADF(熱活性化遅延蛍光)を実用化するために、同教授を共同創業者として設立した。Kyulux 代表取締役CTOの安達淳治氏は、「TADFは、国の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の30のテーマに選ばれた技術で、プロジェクトの成果として安達教授らが開発に成功したものです。第2世代の有機EL発光材料であるリン光材料のようにイリジウムなどの貴金属を利用せずに、有機材料だけで高効率の発光が可能になった画期的な技術です」と説明する。
■発色の良い特性を持つ新たな発光技術 Hyperfluorescence
左がHyperfluorescence、右が蛍光材料の発光で、明るさが異なることがわかる
ただし、KyuluxではTADFを使ってそのままディスプレイを作る道は採らなかった。「TADFは効率が高い発光ができるものの、発光スペクトルの幅が広くなるという欠点を持っていました。そのままRGBに採用してディスプレイを作っても、色がきれいに再現できないのです。色純度が低いので絵の具が少し滲んだような発色になってしまいます」(安達氏)。そこで、TADFと第1世代の有機EL発光材料である蛍光材料を混合し、発光させる新たな発光技術を開発した。それが第4世代有機EL発光技術と同社がアピールするHyperfluorescenceである。蛍光材料は発光スペクトルの幅が狭く、発色の良い特性を持つ。その蛍光材料とTADFを混合させることで、スペクトルの狭さは保ちながら、光の強度を4倍以上にすることができた。CEATECのデモでは、Hyperfluorescenceの明るさと色純度の高い発光を体験できる。
Hyperfluorescenceは、貴金属を使う必要がないので、コストを下げられるだけでなく環境への負担も少なくて済む。電流効率も第2世代のリン光と比べて1.5倍ほどに高められることから、消費電力を抑えることもできる。安達淳治氏は、「有機ELディスプレイにとって、Hyperfluorescenceは究極の発光技術だと考えています。これ以上良いもの出てこないほど優れた技術を、九州から生み出すことに成功しました」と技術の優位性をCEATEC来場者に伝える目論見だ。
■実用化へのステップを紹介
CEATECでは、明るさや色純度色の高さを実際にデモで体験するだけでなく、実用化のステップを確認することもできる。台湾のWiseChip SemiconductorがHyperfluorescence技術を使った有機ELパネルを、2017年末から2018年初頭にかけて商品化する準備を進めている。その最終準備段階のプロトタイプをCEATECで展示する。1インチのパネルで、当面は医療機器やウエアラブル端末などの表示部分の利用を想定する。「課題は寿命です。現在は連続で4年から5年の使用に耐えられる段階まで到達しています。医療機器やウエアラブル端末での利用ならば十分な寿命を確保できたと考えています」。
■有機ELの究極材料
将来的にはスマートフォンのディスプレイや、さらに大型の有機ELテレビにもHyperfluorescenceの技術を採用した有機ELパネルが利用されることをターゲットとしている。民生用機器への展開を想定すると、10年といった寿命が求められるため、さらなる技術開発が必要になる。安達淳治氏は「すでにジャパンディスプレイやJOLED、サムスン電子、LG Electronicsなどから出資を受けているように、国内外からKyuluxの技術は高く注目されています。CEATECでは、セットメーカーなどの方々はもちろん、材料メーカーや受託で材料の合成を行う企業など、Kyuluxの技術に興味を持っていただいている方々と話ができることに期待しています」と語る。日本発の「有機ELの究極材料」が、CEATECの場をきっかけに国内外に実用化の道筋を開いていくことになりそうだ。
(株)Kyulux(ベンチャー&ユニバーシティエリア)
- 展示エリア
- 特別テーマエリア
- 小間番号
- S10-73
- URL
- http://www.kyulux.com
- 出展者詳細
- http://www.ceatec.com/ja/exhibitors/detail.html?id=9759