台風・大雨・洪水の災害が続き、会期中も日々被害の大きさが明らかになっていく中で、CEATEC2019は全日程を無事終了することができた。まずは関係各方面の尽力に敬意を表したい。
そうした厳しい状況の中、しかもカレンダーの後ろには東京モーターショーなど大型の展示会が控えていながら、登録来場者数は前年比微減の144,491人(1日あたり約3.6万人)にとどまった。その144,491人の方々にCEATECは、どのような体験や驚きや気付きを提供できただろうか――。
外国からの出展者が急増
CEATECは2000年より、一般社団法人電子情報技術産業協会、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会という3団体の「共創」で始まった展示会である。初開催から20年目を機に、これまで以上に世界での存在感を増す目的で、地域性を示す「JAPAN」の文字を外し、新たなスタートを切った。それを象徴するのが各国企業の多数の参加だ。アメリカ、スイス、ロシア、インド、フィンランド、中国、台湾など24の国と地域から250社/団体が今年のCEATECに加わった。2000年の初回から連続参加の台湾パビリオン(TEEMA)には電子デバイスやロボットなど24社が出展(CEATEC NEWS 126)。テック企業を集めたスイスは、在日大使も登壇し技術力をアピール(CEATEC NEWS 137)。ロシアパビリオンも昨年の4社から11社に参加社が急増し、「具体的なビジネスが動き出している。日本に信頼感と親近感を持っており、コラボレーションできるパートナーを見つけたいと強く願っています」とのコメントもあった(CEATEC NEWS 135)。
広いプロムナードが会場全体を貫く
CEATEC 2019では大胆に小間レイアウトが変更された。カテゴリーごとに会場を横断する形で配置され、それらをつなぐ広いプロムナードが設定された。取材する我々も感じたことだが、多くの来場者のみなさんも「歩きやすく、見通しが効く展示会だ」と感じられたに違いない。そして会場レイアウトの中軸となったのが、初参加のサービス産業やインフラ企業も加わって、2030年の未来の都市とそれを支える多様なサービスをイメージした企画展「Society 5.0 TOWN」である。
全体の中軸となったのは「Society 5.0 TOWN」
昨年までは「IoTタウン」として展開していた主催者企画を進化させつつ、2019年のスナップショットを、という意味合いも込められたSociety 5.0 TOWN。
その街の広いプロムナードを自在に動き回り、来場者やメディアの熱い注目を集めたのが、初参加のANAホールディングスの視聴覚拡張型自走式ロボット「newme(ニューミー)」だった。ANAは遠隔操作可能な装着型ロボットも展示したほか、カンファレンスでは取締役の片野坂真哉社長と女優の綾瀬はるかさんが登壇して、デモンストレーションを行った。これらを統合したプラットフォーム「AVATAR社会インフラ」は、CEATEC AWARD 2019の特別賞「Society 5.0 TOWN賞」も受賞している(CEATEC NEWS 092)。
大手ゼネコンも存在感を示す
未来の街をどう作るか。そこに大きくコミットするプレーヤーとして、大手ゼネコン各社はSociety 5.0 TOWNでも存在感を放っていた。
清水建設は豊洲エリアのスマートシティプロジェクトや、参画する自動運転の実証プロジェクトなどを紹介(CEATEC NEWS 145)。
戸田建設は稼働中の浮体式洋上風力発電設備で水素を生成する脱炭素型の未来都市や、村田製作所と共同開発で既発売の「作業者安全モニタリングシステム」を使った「未来の現場管理」をアピールした(CEATEC NEWS 145)。
大成建設は、既存の都市が抱える課題解決に向け試行錯誤を行うプラットフォームとして、街区そのものをバーチャルモデル化した「デジタル西新宿」を紹介したほか、月面での作業を模擬する「力触覚伝達型遠隔操作ロボット」の体験型デモンストレーションも行った(CEATEC NEWS 121)。
竹中工務店は人の動作に呼応し、快適と感じられるようなレスポンスを発生する「五感レスポンス・ウエルネス・システム」のデモ展示を行い、未来の生活空間のあり方を提案した(CEATEC NEWS 075)。
大林組もIoT・AIを活用したビルマネジメントシステム「WellnessBOX®」の展示などを行った。
“街”の両岸にデバイスとソリューションが
中軸となるSociety 5.0 TOWNの両岸に配置されたのが、Society 5.0実現に向けたソリューションや製品を展開する「トータルソリューション」のエリアと、その実現に欠かせない部品やソフトウェアを紹介する「デバイス&テクノロジー」のエリアだ。
トータルソリューションエリアには、メディカル一色のブースで6年ぶりのCEATEC復帰を飾ったソニー(CEATEC NEWS 142)や、試験浮上に成功した「空飛ぶクルマ」の展示で来場者を驚かせたNEC(CEATEC NEWS 142)、世界体操選手権での採点をサポートし、CEATEC AWARD 2019の総務大臣賞を受賞した3Dセンシングシステムの富士通(CEATEC NEWS 094)などが出展。誰もが知る大企業の意外性のある展示が、来場者の関心を集めた。
また、デバイス&テクノロジーエリアでは、20年連続出展の企業らが日本の競争力の源泉とも言える超小型・超高性能デバイスの秘密の一端を垣間見せた。電子機器やエネルギー分野で欠かせないデバイスの展示や新たなソリューション提案などで、アルプスアルパインCEATEC NEWS 144)、アンリツ(CEATEC NEWS 124)、タイコ エレクトロニクス ジャパン(CEATEC NEWS 072)、TDK(CEATEC NEWS 134)、村田製作所(CEATEC NEWS 122)、ローム(CEATEC NEWS 123)、日本航空電子工業(CEATEC NEWS 118)などが存在感を示す。
大学、学生、ベンチャーに、さらに門戸を広げる
デバイスとソリューションがSociety 5.0 TOWNを両岸とすれば、その両翼にはCo-Creation PARKとスマートXと呼ばれるエリアが設けられた。
Co-Creation PARKを形成するのは、冒頭に紹介した海外パビリオンと、「スタートアップ&ユニバーシティゾーン」。新たな変化の兆しを感じられるよう、設立9年以下のスタートアップ企業や大学・教育機関を対象とした展示エリアだ。
技術で聴覚障害者のサポートを目指す神奈川工科大(CEATEC NEWS 005)や、力触覚伝達で高い知見を有する慶應義塾大学ハプティクス研究センター(CEATEC NEWS 013)など常連に加え、CEATEC AWARD 2019のトータルソリューション部門グランプリを受賞したLiLz株式会社など新たなプレーヤー、さらには際立った特徴を持つ振動検知デバイスをアピールしたロボセンサー技研(CEATEC NEWS 139)なども出展。多くの人が足を停め、会話を交わし、活況を呈した。さらにCo-Creation PARKに隣接する形で今年から設けられたのが、緑の人工芝を敷き詰めた「学生交流ラウンジ」だ。高校生や高専生、理系文系の大学生を対象に、企業トップや大学人によるオープンセミナーの場としても活用された(CEATEC NEWS 102)。
工場も住宅も、スマート化に邁進
いっぽうのスマートXは、「特定の産業を革新的に変革するソリューションや製品」を紹介するエリアだ。ロボット大手のファナックは、ロボットではなく工場をスマート化するコンセプト「FIELD system」を紹介(CEATEC NEWS 117)。金属加工機のアマダホールディングスもIoTを活用して工場の課題を可視化する「V-factory」に関わる展示を行った(CEATEC NEWS 098)。シャープは家電製品やIT機器を暮らしのパートナーに進化させるサービス「COCORO+(ココロプラス)」を紹介(CEATEC NEWS 096)。住宅設備大手のYKKは、玄関ドアや窓の締め忘れをIoTで知らせる「mimmot(ミモット)」を出展、来場者の共感を呼んだ(CEATEC NEWS 127)。
TOKYO 2020という節目を超え、次の時代に
CEATECが家電やソフトウェアの展示会からIoT/CPSの総合展に大きく舵を切った節目の年と言えるのは2016年のことだった。その年のCEATEC NEWSの最後にはこう書かれている。「来年、あるいは再来年、さらにはもっと先に見返してみた時、大きな変化は、ここから始まっていたと思えるような吉兆を、書きとめられていることを願い、2016年のCEATEC JAPANニュースセンターをクローズします。」
この思いは2019年の今も全く変わらない。そして来たる2020年は、日本が未来のスマート社会のショーケースとして、いわばナショナルゴールと目標にしてきたTOKYO 2020の終幕後に開催されることになる(10月20日〜23日、幕張メッセ)。
最後に、取材ご協力いただいた多くの出展者、来場者の皆様に感謝しつつ、2019年のCEATEC ニュースセンターをクローズしたい。来年のCEATECが、多くの出展者、来場者とともに、TOKYO 2020で実現した多くの成果と、その先に向けた目標やビジョンが語られる、歴史的なイベントとなることを期待しつつ。
(了)