接触情報を双方向に通信しリアルな力触覚を伝達して再現する「リアルハプティクス」の研究に取り組む慶應義塾大学リアルハプティクス研究センター。力触覚を使って遠隔操作できるロボットハンドなどの展示でCEATECでも人気のブースとなっている。前回のCEATEC JAPAN 2017では、ブースの滞在時間などによる「EPI(Event Performance Indicator)ランキング」で名だたる大企業に混じり上位に食い込むなど、大盛況だった。CEATEC JAPAN 2018では、リアルハプティクスの応用の「具体化・実用化」が進んでいることをさらに印象づける展示・デモを行う。
慶應義塾大学リアルハプティクス研究センターのブースの展示・デモの内容は、大きく2つにわけられる。1つは、同研究センターの技術を実用化するためのソリューション、デバイスの開発、ライセンスなどを行うベンチャー企業のモーションリブによる、技術やデバイスの発表。もう1つは大学と企業の協創を推進する「リアルハプティクス技術協議会」の共同研究の事例の発表である。
無線でも力触覚をリアルタイムに伝達できることを体験
モーションリブは、2016年に設立し、2017年4月に株式会社化したベンチャー企業で、リアルハプティクス技術の実用化に向けた事業を展開する。CEATEC 2017では、リアルハプティクス技術の基本機能である動作の伝達・記録・編集・再実行を、容易に実行できるようにする力触覚モジュール「AbcCore 」を開発し、展示した。AbcCoreを使うことで、力触覚を用いた機器の遠隔操作などが容易に実現できるようになることから、CEATECでの展示後に企業から検証用途などでの利用の引き合いが多数寄せられたという。今回も力触覚応用の基本モジュールとして引き続きAbcCore の紹介を行う。
モーションリブの技術を用いた展示で注目したいのが、無線による力触覚の伝達のデモである。小型の「ワイヤレス力触覚デバイス」を用いることで、近距離無線通信技術のBluetoothによるワイヤレスの力触覚伝達を体験できる。デモでは、ワイヤレス力触覚デバイスのスレーブ側にロボットハンドを、マスター側に操作部を接続し、無線通信を介してボールを握る感触が伝わることを試せる場を提供する。モーションリブの代表取締役CEOを務める溝口貴弘氏は、「力触覚をワイヤレスで伝達できるようになれば、ドローンや無人潜水艇などに取り付けたロボットアームで、力触覚を伝達しながら遠隔から操作したり、有線接続が難しい真空の環境の中での作業を力触覚を伴い実現したりと、応用範囲が一段と広がる」とデモの意義を説明する。
アミューズメントから産業応用まで、実用化を見据えたデモ
リアルハプティクス技術協議会の共同研究の成果も、興味深いデモや展示で紹介される。目を引きそうなのが遠隔操作で釣り体験ができる「アバターフィッシング」のデモだ。前回もロボットアームのデモを実施したが、応用を進めて一般の来場者にも楽しめるデモに仕立て上げた。リアルハプティクス技術を用いてロボットアームと利用者の間で力触覚を双方向に伝達することで、釣り竿に魚がかかる感触を遠隔で味わい、魚がかかったときに釣り上げる動作をロボットアームに伝える。遠くに出かけなくても、居ながらにして釣りの醍醐味を楽しめるというアプリケーションである。
より具体的なビジネスへの応用事例も展示する。それが「油圧駆動機器へのリアルハプティクス技術の応用」と題した技術紹介である。建設工事現場などで使われる油圧駆動の機器は、間に油圧駆動装置を介して操作するために操作する人間には感触のフィードバックが得られない。今回は企業との共同研究で油圧駆動機器にリアルハプティクス技術を応用することで、人間が操作するマスター側の電動装置と、スレーブ側の油圧装置の間で相互に力触覚の伝達を実現できたことを示す。慶應義塾大学グローバルリサーインスティテュート ハプティクス研究センター特任教授で同研究センター副所長の大西公平氏は「リアルハプティクスはこれまで電気信号を使ったモーターの駆動で開発・実用化を進めてきた。今回、スレーブが油圧駆動機器でも人間が感触を感じながら操作できることを示すことができた。今後はアクチュエータがモーターでない場合でもリアルハプティクス技術を適用できることで、人間の動きや力に対して圧倒的に大きな力で動かす“力のスケーリング”を力触覚とともに実現できる。繊細に感触を感じながら大きな力が必要な作業が可能になることで用途の幅が広がる」とその意義を語る。
このような応用も含めて、CEATEC JAPAN 2018で同研究センターは企業との共同研究の成果を複数紹介する予定がある。力触覚の伝達が企業の業務や作業にどのような変化を与えるのか、慶應義塾大学ハプティクス研究センターのブースで新しい気付きに出会うことができそうだ。大西氏は「リアルハプティクス技術によって力や感触の倍率を変えられることが、具体的に理解してもらえると思う。人間の限界を超えた繊細な動作や大きな力の動作が実現できる。機械の優れたところと人間が優れたところを合わせて双方が共存できるようにする技術だ」という。溝口氏は、「実際に事業化の案件が進んでいる。リアルハプティクス技術が、リアリティのあるビジネスにつながることをCEATEC JAPAN 2018のブースで体感してほしい」と語った。
- 会社名
- 慶應義塾大学ハプティクス研究センター
- エリア
- 特別テーマエリア(スタートアップ&ユニバーシティエリア)
- 小間番号
- S005
- URL
- http://haptics-c.keio.ac.jp/
- 出展者詳細
- https://www.ceatec.com/ja/showfloor/detail.html?id=12188