横浜市中区本牧に、実業家で茶人の原三溪によって作られた日本庭園、三溪園がある。日本庭園に国の重要文化財建造物10棟を含む歴史的建造物が配された空間だ。この三溪園の建物や庭園をVR(仮想現実)で再現し、庭園の内苑・外苑が完成した大正12年当時と、現在の姿とを行き来できるデモがCEATEC JAPAN 2018のテクノブレイブのブースで行われる。
3D空間を仮想的に捉えられるVRで建物や庭園の企画意図を追体験
テクノブレイブ株式会社は、システムインテグレータも含めたソフトウエア開発企業で、医療、交通からアミューズメント業界まるまで多くの分野にソリューションを提供している。そうした中で、新分野として2年ほど前からVR製品の企画開発に乗り出し、タイのグループ企業 Techno Brave Asiaでマンションの内見ツールを開発、現地で受注の実績をあげている。一方、国内では湘南工科大学総合デザイン学科 助教で歴史的建造物の建築デザイを研究する松村耕氏と共同で、VRを活用した教育ソリューションについて産学連携の開発を始めた。その成果が「VR三溪園」である。
松村氏は歴史的建造物が建築当時にどのような意図を持って設計され、使いやすさや住みやすさにデザインをどのように取り入れていたかといった、建築デザインの研究を学生とともに進めている。一方、これまでの教材は教科書や文献などのテキスト、図面や、ミニチュアの模型などに限られた。2次元の図面から3次元の建物を想像する能力には個人差が大きく、ミニチュアでは人間の身体感覚がわからない。学生に平準化した情報を提供し、その上で学び考えるために新しいツールが必要と考え、テクノブレイブとVRを使った取り組みを開始したという。
建物、庭園の構成だけでなく時代や時刻による見え方も体験
「VR三溪園」では、松村氏が収集した建物の構造のデータを元に作った3Dデータを、テクノブレイブがVR化した。VR化に際しては、建物の内部に入って360度を等身大のイメージで自在に体験できるようにするだけでなく、庭園との組み合わせの情報も盛り込んだ。テクノブレイブ 技術戦略室の鈴木英幸氏は「建物を個別に体験するだけでなく、庭園の中の建物としてどのような意図を持って設計されたかを空間の中で体験できることで、学びにつながる」と説明する。現在の三溪園の周囲は海に向かって石油化学コンビナートが広がっているが、造園当時は海を見下ろす丘に位置していた。VR三溪園では、大正時代の地形や周辺状況などを合わせてVR化することで、原三渓がどのような庭園を作り、その中でどのように客人をもてなしたかを、仮想空間で追体験できる。
仮想空間では、1923年(大正12年)と2018年(平成30年)の景色をワンボタンで切り替えられ、造園当時と現在を瞬時にタイムワープする体験ができる。さらに、今回のVRでは光と影のシミュレーションを取り入れたこともポイント。時刻を1時間単位で指定でき、日中や夕刻、真夜中に、建物の中でどのような体験があったかを確認できる。光と影の動き、外に見える景色、夜になったときに行燈を点けたときの明るさなど、多くの光と影の情景を再現する。
教育研究から観光やインバウンドのビジネスツールへも拡大
VR三溪園は、建築デザインに対する仮説検証のツールとして教育や研究の場での効能を示すことが主目的で、CEATEC JAPAN 2018での展示も体験をメインにする。一方で、歴史的建造物や庭園をVRで「体験」できるようにすることで、「観光やインバウンドに向けたビジネスツールとしての活用も広がる」(鈴木氏)と指摘する。例えば、VR三溪園の製作に協力した広域財団法人三溪園保勝会では、産学連携の成果である「VR三溪園」を今後の三溪園の誘客やPRに活用することの検討をはじめた。
歴史的建造物や名蹟、庭園などを、VRコンテンツ化することで、事前や事後の体験によって観光アピールするだけでなく、定期的な補修などの際に見学できない建物や庭園をVRで仮想体験できるようにする新しいサービスも可能になる。等身大で体験を共有できるVRというツールだからこそ、教育や研究の現場での活用はもちろん、ビジネスチャンスも広がることをデモから体験できるだろう。
なおテクノブレイブは、16日11時からの「新技術・新製品セミナー」(N1-1)で「大学との共創が生んだ「VR三溪園」と、そこから始まる新ビジネスモデル開拓への挑戦」と題した講演を行う。
- 会社名
- テクノブレイブ(株)
- エリア
- トータルソリューション
- 小間番号
- A048
- URL
- https://www.tbrave.com/
- 出展者詳細
- https://www.ceatec.com/ja/showfloor/detail.html?id=12034